長崎壱岐でソルガム栽培に取り組む、坂本和久社長のインタビュー

長崎壱岐でソルガム栽培に取り組む坂本和久社長のインタビュー

長崎県の壱岐で、バイオマス燃料として注目されるソルガムの栽培に挑戦している有限会社和コーポレーションの坂本和久社長に、これまでの取り組みや、ソルガム栽培への思いをお聞きしました。

―― 坂本社長、簡単に、自己紹介をお願いします。

私は、1964年 東京オリンピックの年に長崎県の壱岐の島で生まれました。大学から名古屋で学び、卒業後は代議士の秘書を勤め、名古屋において壱岐出身者の会、長崎県人会の設立や観光物産展の開催、地元の壱岐で島おこしグループの結成に参加するなどの活動を行ってきました。また、秘書時代の人脈で日本と東南アジア各国との友好親善活動も行っています。

弊社は、「省エネと再エネ」でカーボンニュートラルの実現を目指すことを会社の経営方針及び目標としています。省エネルギー事業では、窓ガラスの遮断熱塗料・飛散防止塗料やDIY向けの遮断熱シートの開発・販売を行っています。節電を通じてCO2削減に貢献するため開発・販売に加えて、展示会などによる普及促進に取り組んでいます。再生可能エネルギー事業では、新種ソルガムからバイオマス燃料に加えて、セルロースナノファイバー、生分解性プラスチック、バイオエタノール、食用・飼料などへの研究開発を行っております。

―― 壱岐についても、ご紹介いただけますか?

壱岐は、 福岡県と対馬の中間地点で玄界灘に浮かぶ人口24,582人の離島です。
博多港から76km、佐賀県唐津港から41km、対馬から68kmの位置にあります。
南北約17km、東西約15kmの島で、壱岐本島と23の属島があり、沖縄を除くと全国で20番目に大きな島です。

気象用語となっている「春一番」の発祥の地ですが、暖流である対馬海流の影響を受け、比較的温暖な気候で雪はめったに降らず、台風の影響もあまりなく、高い山もない平坦な島です。サンゴ礁の生息地としては世界最北端と云われています。

長崎壱岐でソルガム栽培に取り組む坂本和久社長のインタビュー

壱岐は、『魏志倭人伝』に一支国(いきこく)、日本最古の歴史書の古事記に伊伎嶋(壱岐島)という名で記され、大陸との交易と交流の拠点となっていたことが「原の辻(はるのつじ)遺跡」など多くの古墳や遺跡の発見によりわかっています。

壱岐には、法人登録されたものだけでも150を超える数の神社があり、壱岐神楽は700年の歴史をもつ国の重要無形文化財に指定されています。

長崎県内第2位の広さを誇る米どころで、アスパラ、いちご、メロンなどの農産物や、真珠の養殖、海産物ではウニ、ブリ、特にマグロやケンサキイカは日本有数の産地でもあります。

麦焼酎の発祥の地と云われ、WTO協定に基づく世界のモンドセレクションに指定されています。
鎌倉時代の国産の牛を解説した国牛十図には筑紫牛の名で壱岐の牛が登場していて、古くから畜産が盛んで壱岐牛はブランド牛としても知られています。

天然温泉の「湯ノ本温泉」は、1700年の昔から残る古湯といわれ、泉源は17ヶ所あります。

―― 坂本社長ご自身の壱岐での思い出やエピソードがあれば、教えてください。

小学校の時に海に行くと、足の膝くらいの深さでサザエやウニが沢山捕れて、漁業も盛んな時期でケンサキイカは海流の関係で壱岐で日本の相場が決まると聞いて子供心に誇りに感じたことがあります。

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黒崎半島の先端にある壱岐のシンボル『猿岩』

我が家も畜産農家ですが、牛や豚は島外に高く売るものであり、食卓では「ひきとおし」という地鶏の郷土料理が中心でした。

子供のころから慣れ親しんだ牛の世話で飼料の栽培をした経験があるためソルガムに興味を示しましたし、多種多様な活用ができることに魅力を感じて「壱岐発のソルガム事業」の研究で新たな分野で交流人口を増やし壱岐の観光に繋げたいと考えました。

壱岐の観光客数は、海水浴ブームで年間60万人を超える時期もあり、遠浅で波静かな白砂青松の海岸と民宿が人気ですが、コロナ禍以前より、観光客は減少傾向にあります。

私が、長年、ご指導ご協力頂いている女性の方がいらっしゃいます。女性の方に年齢のお話をするのは失礼ですが、私の父母と同世代です。この方は、鹿児島から単身で壱岐に移住され、壱岐で起業して、壱岐から九州・全国へと活動の輪を広げていらっしゃいます。壱岐の皆さんが、この方を頼り、お仕事以外にも色々なご相談に集まられます。長年のご経験と日本全国にネットワークを持たれている視点と観点から壱岐の良さを引き出し、壱岐や島外からも壱岐を盛り立てて頂いています。壱岐の神社仏閣は、学術的研究対象にされ、神々が宿る島として地元の皆さんの生活・文化に今も息づいていて、そこでも積極的に活動されています。

いま、壱岐島外から移住される方が増えてきていて、壱岐の良さを新たな視点で発見されて全国に発信して頂いています。

弊社もソルガム事業を通じて、ソルガムの多種多様な活用で「壱岐発の壱番 高収入な作物」として事業化することにより微力ながら貢献したいと願っています。

―― ずばり、壱岐の課題、問題点は何でしょうか?

壱岐は、人口減少と併せて少子高齢化も進行しているなか、特に中学や高校卒業後の若者の流出防止や雇用創出、加えて、医療・福祉体制の充実、医療従事者などの人材確保が課題となっています。

観光客数は、コロナ禍以前より海水浴ブームの衰退、交通アクセスの 問題、国内観光地間の熾烈な誘致合戦などにより大幅に減少しています。

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基幹産業である第1次産業の総生産額は、農業については横ばいの状況で、水産業については減少傾向にあるうえ、就業者の高齢化や後継者不足など厳しい状況が続いています。

環境にやさしい島づくりを推進するため、豊かな農水産物等の地域資源や自然を活かした取組が求められています。

―― ところで、坂本社長にとって、エネルギービジネスとの出会いは?

壱岐は、戦後電力の民営化を成し遂げ「電力の鬼」と称された松永安左エ門翁の出身地です。

私は、子供のころから松永記念館はじめその偉業を讃える多くの壱岐島民の皆さんのお話を聞いていました。松永安左エ門翁の「わが人生は闘争なり」が私の座右の銘です。

大学を卒業して、愛知県の代議士の秘書を勤めた時に、同じく壱岐ご出身者で松永安左エ門翁の甥御さんの中部電力社長のちの中部電力会長・中部経済連合会会長の松永亀三郎氏との出会いがありました。壱岐出身者の会・長崎県人会を設立して松永氏に顧問や会長をお努め頂き、私は公私にわたりご指導を頂きました。

壱岐出身のお二人の松永氏を通じて、エネルギービジネスに出会いました。

―― 坂本社長がソルガムに着目したきっかけは、何だったのしょうか?

バイオマス燃料については、代議士秘書時代に、1991年のピナツボ火山の噴火後の復興のお手伝いでフィリピンに行き、その後の親交で2006年のバイオ燃料法の制定でフィリピン国内の自動車等に使用される液体燃料にバイオ燃料の含有が義務付けられた経緯を見ました。バイオディーゼル、バイオエタノールという燃料、特にバイオディーゼルは世界でも最大級の生産を誇るココヤシオイルが主な原料でしたが、私は、新たにジャトロファ、パームオイルへの期待が高いことを知り興味を持ちました。 

東日本大震災は、我が国のエネルギー安定供給の脆弱性を露見させ、エネルギー政策の見直しとエネルギーの安定確保の問題等は世界的課題として認識されることになりました。

再生可能エネルギーの代表的な太陽光発電、風力発電は、自然環境に左右されますし、建設時は多くの人の手を必要としますが、稼働後は発電会社や管理会社のみの限られた人員での運営になります。

それに比べて、バイオマス発電は、売電事業が終了するまで燃料調達から発電所運営に至るまで多くの人の手を要し、雇用や経済効果が生まれます。その点に着目し、木質バイオマス事業の研究を2010年頃より開始しました。

2010年に日本でバイオマス活用推進基本計画が閣議決定されました。弊社は「耕作放棄地問題の解消と地方から日本の産業を支える誇れる農業」の確立を目指して、畑から採れるバイオマス燃料と原料の栽培を模索しました。輸入に頼らず、安価に安定供給でき、地産地消のエネルギー源で地方の産業と雇用の創出に貢献したいと考えました。

2013年に国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)と国際農林水産業研究センターが共同開発した資源作物 エリアンサスに着目して皆さんとの協議を重ねて、更に用途に応じて多種多様に活用できる資源作物を求めてアジア各地を訪問しました。

2019年よりある国の研究機関が開発した新種ソルガムで連携を行いました。ソルガムは、壱岐はじめ日本の畜産農家の皆さんには馴染みの深い作物です。

2021年から壱岐で試験栽培を行い、破砕・搾汁・粉砕・ペレット化して燃焼試験、食品検査を行い各方面から一定の評価を頂きました。

長崎壱岐でソルガム栽培に取り組む坂本和久社長のインタビュー
ソルガム



―― 今年は、どんなことをやっていく予定ですか?

現在の取り組み以外での予定としては、先ず、日本のソルガム品種との違いと優位性の確認、ソルガムの混焼燃料の他、セルロースナノファイバー、生分解性プラスチック、バイオエタノール、家畜飼料、小麦の代用(グルテンフリー)としての6次製品化を視野に入れ、壱岐以外にも全国的に栽培地を広げて行くのが目標になります。


―― ソルガム以外に、チャレンジしたいこと、目標などはありますか?

弊社は、あいち産業科学技術総合センターさんのご協力のもと新種ソルガムを原料にセルロースナノファイバーの製造に着手し、パートナー会社と生分解性プラスチックの試作品の製造も行っています。

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昨年、壱岐で栽培したソルガム

【参考記事】 和コーポレーション、長崎県壱岐市でソルガムを栽培(2023年1月31日)

「脱プラスチック」への流れで「バイオプラスチック」の製造が進む中、更に「生分解性プラスチック」にすることにより、水と二酸化炭素に分解されて自然に還り、海洋プラスチックごみの削減に貢献できます。海洋プラスチックごみ、マイクロプラスチックごみ、による海洋汚染問題は、特定有人国境離島指定地域に位置付けられる壱岐の島において生態系への影響を含めた死活問題であり喫緊の課題です。ゴミとして焼却処理する必要がないので環境負荷も少なくなります。一般に生分解性プラスチックは強度不足という弱点がありますが、セルロースナノファイバーを添加することにより高強度の生分解性プラスチックを実現できて用途が拡大します。SDGsの潮流やマイクロプラスチック問題への対応から既存のプラスチック製品に置き換わっていく可能性が期待されます。

また、セルロースナノファイバーは、2014年に日本の成長戦略で1兆円規模の市場の可能性を期待されている新素材です。今後は、政府が策定した利用促進ガイドラインに基づき多種多様な用途への活用を模索して参ります。                               

ソルガム以外であれば、2国間クレジット(JCM)に注目しています。日本国政府は環境省、経産省、林野庁が窓口となり、二国間クレジット(JCM)を通じた脱炭素を推し進めようとしています。日本の大手企業や海外の関係機関との連携により、CO2のクレジットを発行する前段階で森林整備や植林を進めてみたいと思っています。

幸いに、これまでソルガム等に関わって来た事が功を奏し、海外の関係機関との連携もスピード感を持って取り組めるので、脱炭素に対する取り組みもチャレンジしたい事業の一つになります。

また、日本においてもカーボンニュートラルの観点から製品化のみではなく、例えば新種ソルガムを「CO2の肺排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにする」、栽培から伐採・製品化などを体系的にコーディネイトして、更には多種多様な製品化で循環型社会の構築にも寄与したいと願っています。

―― 最後に、ご自身や壱岐の未来について、語ってください。

これは、私の持論であり、目標でもあります。

私は、以前から壱岐の島は農業や漁業あらゆる業界で研究開発場所としての風土・地形を有していると考えています。そして、その研究案件により島外からの来客者を増やして往来が増えて観光産業の発展につながると確信しています。

例えば、九州のある島では、マイクログリッド構築や再生可能エネルギーを活かしたモビリティ活用などに関する包括連携協定を太陽光発電パネルメーカーの民間企業と行政で締結されています。担当者さまからは、弊社に太陽光他は自然環境に左右されるとの事でお問い合わせも頂いております。

宮崎県と耕作放棄地問題の解消と資源循環事業にソルガムなどの事業で提携された商社さんもあります。

九州電力さんからも離島での赤字は会社の経営母体に大きく影響していると聞きます。
壱岐の島は、実証実験が行える土壌にあると考えています。
壱岐は玄海原子力発電所の対岸にあります。

壱岐では、脱炭素化に向けて洋上風力発電の導入、水素発電実用試験などの検討が行われています。
再生可能エネルギーを活用することで、従来の発電所に依存することなく、地産地消により地元でのエネルギー生産が可能になればと思っています。

さらには、バイオマスエネルギー、海洋エネルギー、廃棄物エネルギーなど、さまざまな再生可能エネルギーの活用が考えられます。これらのエネルギーを組み合わせることにより、多様なエネルギー供給体制を構築し、多くの市民の皆さんが参画でき地元の利益になる地産地消のエネルギー源で地元経済の活性化や環境保全に貢献することが出来ると考えています。
弊社がソルガムのあらゆる可能性を研究開発することにより、エネルギー以外にも、それぞれの地域に合った高収入作物としての活用で事業化・商品化をして頂く共創を図りたいと願っています。

弊社は、耕作放棄地問題の解消と新しい事業と雇用の創出で地方の活性化、「地方から日本の産業を支えているという誇れる農業」の構築を目指します。高齢者の皆さんにおいては農地の賃貸で「公的年金+α の生活」の実現に貢献して参ります。


(おわり)


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有限会社 和コーポレーション・坂本和久社長


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壱岐の美しい海


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鬼凧





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