東芝、無充電EV実現に向けて高効率な透過型Cu2O太陽電池を開発

東芝

東芝は、低コストで高効率なタンデム型太陽電池の実現に向けて活用が期待されている透過型亜酸化銅(Cu2O)太陽電池において、発電層の不純物を抑制することで、世界最高の発電効率8.4%の実現に成功したと発表しました。

同透過型Cu2O太陽電池を発電効率25%の高効率シリコン(Si)太陽電池に積層すると全体の発電効率が27.4%と試算することができ、同社は、Cu2O/Siタンデム型太陽電池が、Si太陽電池の世界最高効率26.7%を超えるポテンシャルを有することを確認しました。さらに、同太陽電池を電気自動車(EV)に搭載した場合、充電なしの航続距離は1日当たり約35kmと試算することができます。

タンデム型太陽電池は、2つの太陽電池(セル)をボトムセルとトップセルとして重ね合わせ、両方のセルで発電することにより、全体としての発電効率を上げます。既存のSi太陽電池など(ボトムセル)に重ねて利用できる低コストで高効率なトップセルの開発が進められる中、同社は、2019年に世界で初めて、トップセルとして低コスト化が可能な透過型Cu2O太陽電池を開発し、同年、Cu2O/Siタンデム型太陽電池として、Si太陽電池単体効率(当時使用したSiの発電効率は22%)を上回る23.8%の発電効率の実証に成功しました。

今般の開発は、限られた設置面積で必要な電力を供給できる高効率タンデム型太陽電池の実現につながります。カーボンニュートラル社会の実現に向けた充電なしのEVや電車への活用に加え、成層圏通信プラットフォーム(High Altitude Platform Station: HAPS)といったモビリティへの適用も可能です。

なお本技術は、米国科学雑誌「Applied Physics Letters」オンライン版に掲載されました。

開発の背景
カーボンニュートラル社会の実現に向けて、再生可能エネルギーの導入拡大が進んでいます。国内では、昨年度、経済産業省から、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が発表され、国内の発電量に占める再生可能エネルギーの比率を、2018年の17.4%から2050年には50~60%まで増やす方針が宣言されました。本成長戦略では、再生可能エネルギーの主電源化や運輸の電動化の推進が挙げられており、太陽電池を活用する製品・機会・場所の大幅な増加が期待されています。特に、運輸の電動化の推進においては、太陽電池を搭載可能な設置面積が限られる自動車や電車といったモビリティシステムにも、稼働に必要な電力を供給できるタンデム型太陽電池の必要性が増すと予想されています。

代表的な高効率太陽電池であるガリウムヒ素半導体(GaAs)などIII-V族太陽電池を積層したタンデム型太陽電池は、Si太陽電池と比べて高い30%台の発電効率が報告されていますが、製造コストがSi単体の太陽電池と比べて数百倍~数千倍と高く、幅広い製品に適用するには大幅な低コスト化が必要になります。

透過型Cu2O太陽電池は、地球上に豊富に存在する銅と酸素の化合物であるCu2Oを主な材料とし、III-V族半導体と比べて、基板(ガラス)、原材料(主に銅と酸素)、製造装置(半導体や液晶で用いられるスパッタ装置)はいずれも安価で、大幅な低コスト化が期待できます。透過型Cu2O太陽電池は短波長光を吸収して発電し、長波長光を透過します。長波長光で発電するSi太陽電池をボトムセルに用いることで、全体として、短波長から長波長まで幅広い波長の光をエネルギーに変換することが可能で、限られた設置面積でも必要な電力を供給できる低コスト高効率太陽電池として期待されています。

Cu2O/Siタンデム型太陽電池模式図
Cu2O/Siタンデム型太陽電池模式図

本技術の特長
東芝は、2019年に世界で初めて透過型Cu2O太陽電池を開発し、発電の高効率化に向けた開発を進めています。目標とするCu2Oを使用したタンデム型太陽電池の発電効率は30%以上であり、それに必要な透過型Cu2Oトップセルの発電効率の目標値は10%以上です。今般、同社は、Cu2Oを用いたトップセルの発電効率の低下の原因となるCu2O発電層中の不純物の量を制御する独自技術を用いることで、優れた光透過性を有する世界最高の発電効率8.4%の透過型Cu2O太陽電池の開発に成功しました。

Cu2O発電層は、将来の低コストな量産製造を視野に大面積に拡張可能な成膜法である反応性スパッタ法を用いて薄膜形成しています。Cu2Oの半導体結晶としての性質により、結晶中には酸化銅(CuO)や銅(Cu)といった不純物が生成されやすく、それらが発電効率と光透過性の両方の低下原因になっていました。同社は、再現性のある安定したCu2O成膜プロセスを構築するため、Cu2O発電層への不純物の発生を抑えて高純度な発電層を形成する技術開発を進めてきました。今般、X線回折法を用いて、Cu2O発電層に含まれるごく微量のCuOやCuを直接検出することで不純物の量を精密に数値化し、2種類の不純物が最小化する成膜プロセス条件を特定することで、優れた光透過性と高い発電特性(発電効率8.4%)を両立させた透過型Cu2O太陽電池の開発に成功しました。

今般開発した発電効率8.4%の透過型Cu2Oをトップセルに、25%の高効率Si太陽電池をボトムセルに適用したCu2O/Siタンデム型太陽電池の発電効率を見積もったところ、発電効率27.4%と試算されました。この予測値は、Si太陽電池の世界最高効率26.7%を上回る、高い発電効率です。

透過型Cu2O 太陽電池セル
透過型Cu2O 太陽電池セル



透過型Cu2Oセルの結果
透過型Cu2Oセルの結果

本技術をEVに適用した場合の航続距離の試算
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)では、太陽光発電システム搭載自動車検討委員会の中間報告書で、運輸の電動化の推進に向け、高効率太陽電池を搭載した自動車(EV、PHV、HEV)で年間充電回数ゼロの達成が可能かを試算し公開しています。この試算方法を参考に、東芝は、Cu2O/Siタンデム型太陽電池をEVに搭載した場合の、充電なしの航続距離を簡易的に試算しました。

Cu2O/Siタンデム型太陽電池の発電効率を30%、車載設置面積を3.33m2と仮定して、EVの電費にNEDOによる試算で使用された2030年の想定値12.5km/kWhを用いると、充電なしの1日の航続距離は約40kmと試算されました。これは、Cu2O/Siタンデム型太陽電池の発電効率向上とEV電費の改善により1日当たり約40kmの走行が可能であること、さらに、EVには蓄電池(容量数十kWh)が搭載されているため、走行で消費した蓄電池の容量を太陽光発電で補充し続けることで、自宅や充電ステーションでの充電なしで長期間の走行が可能なことを示しています。

今般開発した発電効率8.4%の透過型Cu2Oのトップセルで試算したタンデム型太陽電池の発電効率27.4%を用いて、充電なしの1日の航続距離は約35kmと試算できます。

低コスト・高効率で経済的であり、高効率のため小設置面積でも高出力を実現するCu2O/Siタンデム型太陽電池のEVへの適用は、2050年のカーボンニュートラルの実現に向けた課題の1つである「運輸の電動化」に貢献するものと期待されます。

EVへのCu2O/Siタンデム型太陽電池搭載イメージ
EVへのCu2O/Siタンデム型太陽電池搭載イメージ

今後の展望
東芝は、今後、NEDOの委託事業として、Cu2O/Siタンデム型太陽電池の目標値である10%の発電効率の達成に向け開発を進めていきます。またNEDOの委託事業とは独立して、東芝エネルギーシステムズ株式会社と共同で、量産タイプのSi太陽電池と同じサイズの、大型Cu2O太陽電池の開発を開始しました。今後、2023年度を目標に、外部評価用サンプルの供給を開始し、2025年度を目標に実用サイズのCu2O/Siタンデム型太陽電池の製造技術の完成を目指します。

東芝のホームページへ



【過去記事】 モビリティ|EV・燃料電池車など


【最新記事】 モビリティ|EV・燃料電池車など