千葉県・京葉ガスエリアのエネルギー事情

JR総武線・市川駅付近の空撮
(JR総武線・市川駅付近の空撮)

発電事業、水素製造、EV・燃料電池、電力・ガス小売など、エネルギーに関するニュースを幅広く取り扱う エネルギー専門のニュースサイト「ENERGY NEWS DIGITAL JAPAN」。

当サイトでは、しばらくの間、ENEOSの都市ガス販売が京葉ガスエリアへ拡大されたというニュースが注目を集めました。およそ1か月間、閲覧数1位を続けることは珍しいことです。消費者にとっては、確かに身近な話題ではありますが、どうして記事の閲覧数がそこまで伸びたのかが気になったので、少し調べてみました。

京葉ガスエリアとは
筆者は、1995年から2年間、千葉県市川市で暮らした経験があります。東京メトロ(当時は営団地下鉄)の行徳駅と南行徳駅の真ん中くらいにある「千葉県市川市福栄2丁目」という住所に暮らしていました。交差点の角にあるコンビニには、まだ公衆電話が設置されている時代。当時、電力とガスは地域独占で、電気は「東京電力」、ガスは(東京ガスではなく)「京葉ガス」以外に選択の余地はありませんでした。

さて、同じ首都圏であっても、東京都民や神奈川県民であれば、京葉ガスの存在を知らない人も結構いるはずです。千葉県民が神奈川の「レモンガス」を知らないほどではないかもしれませんが。

そして、各事業者の都市ガス供給エリアを詳しく知っている人はもっと少ないはずです。そこで、東京ガスと京葉ガスの供給エリアを見ておくことにします。

まずは、東京ガスの都市ガス提供エリアから。


東京ガスのサービス提供エリア
(東京ガスのホームページより) 東京ガスの都市ガスサービス提供エリア
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上のマップのとおり、千葉県の東京寄りのエリア(東京ディズニーランド周辺)がサービス提供エリアから抜け落ちています。(地図上の「東京湾」という文字の上側)

次に、京葉ガスの都市ガス提供エリアです。


京葉ガスのサービス提供エリア

(京葉ガスのホームページより) 京葉ガスの都市ガスサービス提供エリア
京葉ガスのホームページへ

千葉県 市川市、松戸市、鎌ケ谷市、浦安市の全域、
および船橋市、柏市、流山市、白井市、習志野市、我孫子市の一部区域

千葉県市川市に本社がある「エルピオ」
少し話が逸れますが、京葉ガスの本社がある千葉県市川市には、エルピオというエネルギー会社の本社もあります。エルピオは、1965年設立のLPガスの会社でしたが、電力とガスの小売自由化に伴い、電力小売や都市ガス事業に進出しました。電力小売では、(北海道と沖縄を除く)本州と四国へサービス提供エリアを拡大し、低価格を武器に14万件の電気の契約を獲得したようです。

しかし、千葉県市川市に本社のある同社であっても、都市ガスの提供エリアは、東京ガスと東邦ガス(愛知県など)エリアのみで、京葉ガスエリアでは都市ガスを提供していません。

そのため、京葉ガスエリアでは、「 (電力)エルピオでんき + (ガス)京葉ガス 」 という組み合わせで契約していた方がいたはずです。今年の3月にエルピオが電力小売からの撤退を発表したことを受けて、それ以降、電力やガスの契約先について考え直す人が増えているのかもしれません。

東京ガス「エリア外」のために無風だった京葉ガスの都市ガス
何百社もが参入した電力小売とは違って、都市ガス小売に参入した事業者は、現時点ではLPガス・電力・通信などのインフラ事業者に限られています。しかも、首都圏でのガス小売の新規参入は、ほぼ「東京ガス」エリアに限られていましたので、「京葉ガス」エリアでは、ほぼ無風状態が続いていました。

(首都圏の主な「新規参入事業者」と「サービス提供エリア」)
・東京電力 → 東京ガスエリア
・KDDI → 東電ガス for au → 東京ガスエリア
・ソフトバンク → ソフトバンクガス powered by TEPCO → 東京ガスエリア


京葉ガスエリアでの各社の動向
・2020年 9月 ケーブルテレビ大手のJCOM、「J:COMガス supplied by 京葉ガス」を提供

・2022年 2月 ENEOSが、都市ガスの提供を開始
・2022年 3月 京葉ガスとエルピオが、電力新規申し込みを停止
・2022年 3月 エルピオが、電力サービスからの撤退を発表

「京葉ガス」エリアでは、ケーブルテレビの J:COM が 2020年に都市ガス小売に新規参入しています。しかし、サービス名が示すとおり、京葉ガスの協力を得たサービスであることや、東京都心に比べてケーブルテレビの普及率が高くないことを考えれば、J:COMの参入には大きなインパクトはなかったはずです。

ですので、京葉ガスエリアの住民が「電気代」や「ガス代」を節約しようと思えば、電力会社を変えるしかありません。電気もガスと同じ「京葉ガス」に変えるか、もっと低価格な新電力を使うか。

今、エネルギー業界には、強い逆風が吹いています。欧州の脱原発・脱石油・脱石炭の流れから天然ガスの需要が高まりその価格が上昇する中での、ロシアによるウクライナ侵攻。日本国内では原発の稼働率は低く、太陽光発電が稼働しない冬の雨の日には首都圏での停電が現実になりそうでした。

大手電力会社が燃料高騰で経営の悪化に苦しむ中、経営体力のない新電力では尚更の苦戦が伝えらています。低料金が売りの新電力が、電力卸市場で仕入れ価格の高騰に苦しみ、提供料金が高騰していることが広く知られるようになりました。そして、エルピオなどの新規参入組の電力小売からの撤退で、消費者の不安はさらに増しました。

都市ガスでの基盤がある「京葉ガス」であれば、少しは安心なのかもしれませんが、その京葉ガスもエルピオと同じ3月に電気の新規申し込みを停止しました。

4月22日、東京ガスのでんきが300万件に到達したというニュースが流れました。しかし、京葉ガスエリアの住民にとっては、他人ごとです。電気だけを東京ガスに変えることもできますが、電気とガスのセット利用ができないエリアでは魅力が半減します。

京葉ガスエリアの住民が辿り着く、ENEOS新規参入のニュース
そのような京葉ガスエリアの住民が、電気やガスの契約先を探すためにネット検索をして辿り着くのが、「ENEOSの都市ガスが、京葉ガスエリアに拡大」されたニュースなのです。

京葉ガスに比べて、ENEOSは圧倒的に大きな会社ですし、燃料の調達では、間違いなく優位な立場にいる会社です。東京電力も、KDDIも、ソフトバンクも新規参入してこないこのエリアで、ENEOSの電気やガスの契約を検討する人達がいることは不思議なことではありません。「ENEOSなら大丈夫だろう」と考えて、ENEOSの電力・ガスサービスに申し込み人がいることは容易に想像できます。

しかし、ENEOSも決して安泰ではありません。現時点では巨人のENEOSですが、自動車の電動化に伴い、ガソリン需要は確実に減少していきます。今後、同社が、発電事業や電力・ガス小売事業などでどの程度のシェアを獲得して、どのようなポジションを獲得するのかが注目されます。

いずれにせよ、京葉ガスエリアの住民にとっては、選択肢が増えたことは喜ばしいことです。今後、さらに選択肢が増えることが期待されます。




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